川北英隆のブログ

企業の社会貢献のあり方

DIC(旧大日本インキ化学工業)がDIC川村記念美術館を縮小し、都内に移転する方針だという。香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントがDIC株式を10%以上保有したうえで、DICは保有する絵画を売却して経営の効率化を図るべきとしたことに端を発する。
DIC美術館がどこにあるのかと調べたところ、佐倉市郊外のDIC総合研究所に併設されている。今年4/1から休館に入り、東京六本木の国際文化会館に移転することが決まったそうだ(3/12の記者会見)。
ただし保有している384点の美術品(DICの資産として計上、簿価112億円)の一部を売却し(売却の規模は未定)、得た現金を株主還元や成長投資の資金とするらしい。この美術品はDICを創業した川村家が集めたものである。
以上は、オアシスの要求を飲みつつ、主要な作品を残すという折衷案だろう。結果、収蔵品の一部が散逸することになる。文明開化によって日本の寺院が傾き、多くの美術品が海外に売られたことと相似形である。
アクティビストという黒船が投資リターンを追求することによって文化が滅びるというのは言い過ぎだとしても、それとよく似たことが起きようとしている。投資家の強欲、つまりグリーディさがどこまで正当化されるのか、日本の投資家として十分に考えるべきである。
一般化すれば、企業の社会活動をどのように評価するかの問題である。SDGs(持続可能な開発目標)に賛同するのであれば(日本ではそのバッジを背広につけているサラリーマンをよく見かけるが)、余計にそうである。
同じことがアシックスでも生じている。アシックスは保有している自己株式(発行済み株式総数の0.98%)を用いてスポーツ支援の財団を設立するとし、株主総会に諮ろうとしている。アシックスからの配当をスポーツ支援財団の活動資金にしようとの案である。
これに対して株主総会での議決権行使助言会社ISSが「反対推奨」をした。1%近い株式が財団の所有となれば、それが企業買収の防衛策として働くとし、反対だという。僕とすれば、財団がアシックスの株式を売却したうえで、その資金を運用すればいいだけだと思うが。
企業が社会貢献するにはどのような手段があるのか。企業が現金を積んで財団を設立し、財団はその現金を資産運用することで活動資金とすることか。それとも、企業が社長に多額の報酬を払い、社長がその報酬の一部を寄附して財団を設立することか。後者の場合、税金の問題をクリアしなければならない。
アクティビストやグリーディな株主の台頭を前にし、日本企業が社会貢献の方法を真剣に考えるべき段階を迎えたことだけは確かである。

2025/03/23


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